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やはり下着とは、パンツである。ブラジャーではない。
健康的な男子高校生である龍一にとってブラはブラで興味深い。
しかし、変態への道に歩み進んだ今現在の彼にとって、パンツとブラとで比べれば、金と銀ぐらいに値打ちが異なる。
龍一の心拍数が速くなる。血管の中を如何わしい感情が流れてざわめく。
「それ即ち、一緒に女性用下着売り場に行こうってことだよな!?」
「そ、そうなっちゃうね……」
ビンゴ!
龍一の予想は正解した。
「龍~ちゃんは、私と一緒に下着売り場に入るのが、いやかな……。恥ずかしい?」
「恥ずかしいけど、恥ずかしくないよ!」
上目使いで訊く月美に、龍一は左右に顔を振る。あまりの速さに脳がシェイクされたが、歓喜にすべてが麻痺する。
嫌なわけがない。
寧ろこれは好機である。
女性の下着売り場。そのような天国があることを龍一は忘れていた。
女性の下着が異常なまで好きになって三日目。そのような極楽浄土が存在することを、考えてもいなかったのだ。
存在を忘れていた楽園である。
そうである。あそこには、彩り緑のパンツが飾られている。夢の世界。
龍一は、パンツ大好き人間になってしまったのだ。
その地を目指さないのは、三蔵法師がシルクロードを旅して天竺を目指さないことに等しい。
そんなヘタレ坊主に人としての価値はない。御経を読み上げながら舌を噛んでしまえ。そう思う。
しかし、龍一が一人で女性用下着売り場に立ち入れば、白い目で見られることは免れない。
ヘタをしたのならば、変質者と判断されて、警備員を呼ばれるかもしれないだろう。
だが、これは月美の買い物に龍一が付き合う形で仕方なくついて行くような状況が作れる。
彼女の買い物に、彼氏がついていく。このように見えるはず。人様に文句を言われる筋合いがなくなる。
三蔵法師に孫悟空が同伴するのと代わらない。素晴らしく自然なはずである。
あまりの申し出に驚いた龍一が、よからぬ空想に思考回路をフル回転させていると、月美が再度訊いてくる。
「やっぱり、下着売り場に入るの恥ずかしいかな?」
ちょっと残念そうに言う月美に龍一が「そんなことはない!」と声を荒立てた。
「ちょっと、龍~ちゃん。声、大きいよ……」
辺りを見回してからスマンと謝る龍一。何人かの通行人が、何事かと二人を見ている。しかし、足を止める者まではいなかった。
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