18311人が本棚に入れています
本棚に追加
龍一の心は躍っていた。卓巳と歩む登校の道のりで、ニタニタと緩い笑顔が絶えない。
周りには同じ学校を目指す生徒たちが幾人も歩いている。
「朝から何をにやけてやがる?」
その言葉に龍一は、自分の表情筋がだらしないことになっているのにやっと気づく。
「何かいいこなとがあったのか?」
長身に金髪の卓巳が見下ろす視線で訊くと龍一は顔を引き締めてから何も隠さずに答えた。
「今日の放課後、月美と買い物に行くんだ」
平然と振る舞ったつもりだったが、声が弾んでいた。龍一は、気持ちを偽るのが兎に角へたである。
「え、マジ。デートかよ龍~。やったな!」
「デ、デートじゃないよ。ただ買い物に付き合うだけだ!」
親友を祝ったつもりが力強く否定されたので、卓巳がむすっとしながら言い返す。
「世間じゃあ、それをデートっていうんだ」
「ち、ちがうってば……」
「ちがわね~よ。お前は、馬鹿か」
卓巳が龍一の肩を肘で突き飛ばす。身長190センチの肘鉄に、身長175センチの体躯がよろめいた。
「大体よ、お前にその気がなくても月美ちゃんは、違うんじゃないか。彼女はお前をデートに誘ったつもりかもしれね~ぞ」
「ま、まさか……」
戸惑いながら考えこむ龍一。
言われて見れば可能性はあるかもしれない。
幼馴染みとはいえ月美も年頃の女の子、異性との恋に落ちても可笑しくない。
そして月美が通っている学校は女子高。恋愛対象になる男がいない現代社会の女島だ。
出会いの少ない月美が、いつも隣にいた手頃な龍一に好意を抱いたとしても不思議ではない。
不思議ではないかもしれないが、まさかという疑念も残る。
自分のようなドン臭い少年を、ボーイッシュで健康美あふれる王子様系美少女で名高い月美が、恋愛対象として相手にするだろうか?
女子高で女の子にモテモテな月美だ。美少女だ。周りに男子がいれば、既に彼氏ぐらいいても可笑しくないはずだ。
だが、今まで彼氏が出来たどころか好きな芸能人がいるすら聞いたことがない。
「まさかのわけないだろう」
また卓巳の肘鉄を食らう。さっきより弱い一撃だったが、同じ箇所に二発目が入ってやっぱり痛い。
「月美ちゃんは、絶対にお前のこと好きだってばよ。あれはただの幼馴染みの女の子じゃあないぞ。じゃなきゃよ、毎朝時間を合わせてお前と登校するか?」
そうだよな、と思う。
最初のコメントを投稿しよう!