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そわそわする龍一。
放課後が待ちきれない。
買い物が――。
月美との買い物が――。
駅前デパートに隠された男子禁断の楽園。女性用下着売り場に咲き誇る多彩且つ芸術的な天女の羽衣を鑑賞するのが――。
――待ち遠しい。
龍一の頭の中では、様々な空想が混沌と渦巻いていた。
学校に着いて一時間目から授業の内容が頭に微々たりとも入って来ない。
終礼の金を聴き休み時間になっても、今まで受けていた授業の科目がなんだったかも思い出せない。次の授業が何かも考えず準備を行わない。
ただただ色鮮やかなパンティたちが、極楽鳥の如く飛び交っていた。……脳内で。
時間を長く感じたが、気がついた時には昼休みになっていた。卓巳が弁当を食べようと机を寄せてくる。
しかし母の愛情弁当も今日ばかりは喉を通らない。
食欲よりも性欲なのだろう。飯よりパンツなのだ。
「なんだ、龍~。食欲ないのか?」
卓巳が訊いてくるが龍一は「あ~」と、気の抜けた返事しか返さない。オカズのタコさんウィンナーを箸でつっつくばかりである。
例え龍一がパンティー楽園のことでモンモンとしながら理想郷を思い描いていようとも時は刻々と過ぎて行く。
あとはホームルームを残すばかり。それで本日の高校生活は終了して、帰宅部の一員である龍一に自由な時間が与えられる。
そして帰宅前に月美と駅前で合流。ルンルン気分を隠しながらデパートにゴーである。そこには待ちかねた約束の大地がまっているのだ。
しかし人生とは、そうそう甘くない。
試練はラストのホームルームに訪れる。
それは担任教師のまなみちゃんの一言から始まった。
「なあ、政所。今日の放課後、資料室に荷物を運ぶのを手伝ってくれないか?」
サバサバとした口調で言い出した言葉に龍一の表情が凍りつく。
今日委員長が風邪で休みであった。そのために矛先がお人好しの龍一に向いたのだろう。
だが、このタイミングで有り得ない。いつもの龍一ならば問題なく手伝っただろう。お人好しだから。
しかし今日だけは駄目である。何が何でも駄目である。
「すみません、先生。ちょっと今日は用事がありまして……」
不満そうな顔をする女教師が何故にと問う。
「なんだ、用事とは? 先生のお願いよりも優先される内容か?」
「はい!」
力強い拒否の返答にまなみ先生が目を丸くさせる。クラスメイト全員が龍一に注目した。
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