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普段は控えめである男子生徒の主張に、男らしさを感じて驚いている様子だった。
しかしながら男らしさでは負けず劣らない女教師が、驚きから瞬時に体勢を立て直して攻め立ててきた。
「随分と凛々しい返事じゃないか、政所。いつもはなえっとしているお前にしては珍しい態度だな。そうなると先生も無理に雑用を手伝えとは言えないな。だがしかし、是非とも理由を詳しく聞いてみたいものだ。なあ、政所」
まなみ先生は、台詞の最後で意地悪い笑みを見せていた。
クラスメイトたちも担任教師に同意権なのだろうか、頷く者も何人かいた。
困ったのは龍一である。どう返答したら良いものか。まさか本当のことは言えない。幼馴染みの女の子とパンティーを買いに行くとは、口が裂けても言えないだろう。
「えぇ~と……、あ、あのですね……」
龍一の態度がいつもの頼りないものに戻る。どのように言い訳しようか悩んで出た言葉は、しどろもどろにどもってしまっていた。弱気が露見してしまう。
龍一が困り果てていると、そこに割って入ったのは親友の卓巳だった。
しかしそれは、助け舟ではなく、更に龍一を窮地に追い込む言葉であった。
「先生、こいつ、今日デートなんですよ。だから勘弁してやってください」
卓巳に悪意の欠片もない。善意で述べているのだ。
驚愕の表情で裏切ったな! と、心中でツッコミを入れた龍一が、親友を驚愕の眼差しで睨みつける。信じられないと涙を流していた。
他の男子生徒全員は「嘘だろ!」と叫んでいた。
何故になよなよの龍一がデートなんだと疑問を憤怒に変える。
俺に彼女がいないのに、何故にあいつに彼女がいるのだと怨念が黒いオーラとなって教室のあちらこちらから燃え上がり揺らいでいた。
「ほぉ~、政所はデートなのか――」
まなみ先生の顔が氷河期の如く冷たい表情に変わっていた。口から放たれた言葉にシベリアの吹雪が混ざっているような極寒の冷気が感じられる。
まなみ先生にも彼氏がいない。だから教え子が恋仲満喫中というのが腹正しいのだ。露骨な嫉妬である。
「ほほう、小笠原。ならば今日の雑用、政所に代わってお前が手伝うか?」
これは振りだと全員にわかった。
「先生すみません。僕も今日はバンドの練習があるので残れません……」
卓巳が断るのは当然の流れ。次にまなみ先生が述べる台詞も予想が出来た。皆がそれに身構える。
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