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蒔苗菜緒(まかなえ なお)はいつものように学校へ続く最後の坂道で自転車から降りた。
他は平坦な路なのにここだけは急坂になっていて、息を切らす覚悟がなければ自転車に乗ったまま坂を登りきることはできない。
朝から息を切らす疲れを伴いながら、しかも汗を掻いて授業を受ける気にはなれないのだ。
さらに今日は美術館見学の日だった。尚更疲れたくない。
菜緒は自転車を引きながら学校を目指した。
学校につくと校門にバスが停めてある。
菜緒たち2年生の生徒全員が一旦校庭に集まって クラスごとにバスに乗り込んだ。
バスに乗ると美術館見学をする上での注意を先に受ける。
担任の教師が手慣れた風にバスのマイクで生徒たちに言い聞かせていた。
「君たちはもう高校生なんだから、常識は分かるよな。他にも見学されている一般の方がいらっしゃるのだから」
一々めんどくさい。
美術館につくと班ごとに別れて行動させられる。
綺麗に飾ってあるだけの絵に興味を抱ける人達が羨ましかった。
学校の授業の一環で行われる美術館見学なんて菜緒の心は躍らない。
この退屈な時間を有意義に使える人達は純粋に羨ましい。
班の友達がみなゆっくりと進む中、菜緒はひとつ先のフロアに一人で進んだ。
ワンフロアにひとつの絵だけが飾ってある。
何年くらい前の絵画なのだろう。ここに来て初めて絵画に興味がわいた。
その絵画には一人の女性が描かれ、さらに城が描かれている。ただし、女性は悲しそうな表情で怪物に連れ去られようとしているのだ。驚いた事にその女性は菜緒にそっくりだった。
だからこそこの絵に惹かれたのか。
そこにある絵は菜緒の心に訴えかける。
「助けて」
菜緒は瞳を閉じ、頷いていた。
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