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学校は大騒ぎになった。
蒔苗菜緒が美術館から忽然と姿を眩ましたからだ。
三日経っても家に戻らない。
家族は警察に捜索願いを出した。
畦道が延々と続いている。
ここはどこなのだろう。菜緒は夕闇の中、やがて視界が完全に奪われてしまう前に知っている道に出たかった。
菜緒は東京都杉並区にいたはずだった。
なのに、こんな田舎道をもうかれこれ1時間は歩いている。
そしてさらに1時間も歩くと、ようやく街の灯かりが映った。
視界を闇が支配し、疲れによる痛みが足を襲ってくる。
菜緒は街につく前に意識を失った。
気づくと洋風な家の天井を見つめていた。
ベッドから上半身を立ち上げると間髪入れずに声をかけられた。
「大丈夫かい?まさかこの街に行き倒れがいるなんて思わなかったよ」
年の頃は15歳くらいだろうか。赤い髪の少年は紅茶を手に菜緒に話しかけた。
「街の外は魔物で溢れてる。それなのにお姉ちゃんは聖灯(せいとう)すら持ち歩かないで外を彷徨いていたの?それになんか変な格好してるよね」
菜緒は高校の制服を来ていた。
この少年は布地の質素な服を来ている。
「あの…」菜緒は口を開いた。
「ここはどこなの?東京とは思えないんだけど…」
少年はぽかんとしていたが、やがて質問に答えた。
「東京…ってのはよくわからないけど、ここはルーザスの街だよ。たぶんお姉ちゃんは異国の人なんだね。聖灯を持ってないのはその為なんだね。」
少年は菜緒に教えていった。
この国は40年前から魔王に支配されている事。
人々には魔王はおろか、魔物を倒す事すら困難な事。
聖灯はそんな人間に残された小さな希望の灯。魔物を追い返せる力を持っている事。
こんな事があるのだろうか。こんな映画のような事が。
話を聞き終えた時、菜緒は虚ろな表情を浮かべ、自分の住んでいた世界へ戻る術を考えていた。
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