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丘のふもとの町がよく見渡せる。風が春特有の穏やかな空気を運んでくる。
「ここでいいのかな…」
丘を登るとトキの目の前に広がるのは、広大な屋敷。というか森。森の周囲はぐるりと柵で囲ってあり、この森の中に屋敷が広がっているのだろう。
さる公爵家の別宅だと聞かされていたのでこれほど大きい屋敷だとは思っていなかった。
別宅でこれなのだから、本宅はいかばかりの大きさなのだろうか。想像するだにおそろしい。
普通の家庭よりは裕福な家で育ったが、所詮自分は庶民であったのだということを痛感させられた。
「自分が今日からここで働くなんて信じられないなあ。まぁ、手入れのし甲斐があるというか…」
「ここでぼんやりしていてもしかたないよな」
そう呟いて、とりあえず屋敷内に入ることにした。
「さあて、門はいったいどこにあるのでしょうか。いい加減疲れたんだけどねぇ」
歩けども歩けども、柵が連なるばかりで一向に門が見えてこない。
柵の中は木がこんもりと茂っていて中の様子をうかがうことはできない。
いい加減足が痛くなってきて、立ち止まった時だった。
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