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ジェスが真剣な表情で調理しているフレドリックの姿を見る目は穏やかである。
1年前、麻薬取引の捜査の中でたまたまコカインを買いに来たフレドリックを捕まえる際、バタフライナイフで抵抗して来たのをしこたまぶん殴り、逮捕後両親が保釈金を払い、初犯と言う事もあって、リハビリセンターに送られる事になり、麻薬を断ち切ったフレドリックが、堅気の商売を始めたのを、ジェスがそれを祝うかの様に店に現れて、フレドリックを見守っていた。
「お待たせしやした。
フレドリックスペシャルどうぞ」
と差し出されたアメリカンドックの香ばしい匂いが、ジェスの食欲を掻き立てる。
ジェスはアメリカンドックにかぶりついたが、いつもの様に美味そうな表情の中に、微かに憂鬱そうな色を浮かべたのを、フレドリックは見逃さ無かった。
「旦那?
何か悩み事でもあるんです?
それとも奥さんの朝飯が恋しくなりましたか?」
ニヤリと笑い告げるフレドリックにジェスは
「冗談じゃねぇ、まぁ・・・イタリアから来たロニーハウエルって偉いさんがよ、誘拐されたってんだが、まるで手懸かりが無くてよー。
これ喰ったらヒルトン行きだ。
俺にゃ縁遠いセレブなホテルとか行きたくねぇよ・・・」
とあっという間にフレドリックスペシャルを平らげたジェスは、椅子から立ち上がりながら、フレドリックへと苦笑を浮かべていた。
「確かに・・・旦那とヒルトンじゃ釣り合わねぇ。
まぁ、イタリアの教授ってんなら、知り合いにイタリアのツレが居るから、何か知って無いか聞いてみときますわ」
「そりゃ助かるぜぇ。
うんじゃごちそうさん」
ジェスは2ドルの代金に5ドル紙幣をぽんと差し出していた。
「旦那ッ・・・お釣りは?」
背中越しに聞こえたフレドリックの声にジェスは振り向き
「お前がクリーンにやってるチップだ。
何か解ったらたのむぜ?」
と片手を上げてジェスはセントラルパークを後にした。
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