第1章 リアル

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普段であれば傷心のまま、すごすごと、部屋を退出していた愛であったが、なぜか不思議と、その日だけは違っていた。 「あの……」 「ん?どうした?」 坪倉が、愛をいぶかしげに見つめた。 「あの……。あたしの……、あたしの何がまずかったんでしょうか?」 坪倉に、そんな質問をぶつけるなど、愛は、自分でも驚きだった。 愛は、納得がいかなかった。 本当に、坪倉は自分の演技をしっかり見てくれているのだろうか? こう言っては失礼だが、坪倉はいい加減な感じがしたし、本当に自分の演技を真剣に見てくれているのか疑わしかった。 ヒロイン役の子はすでに決まっていて、この面接自体、元々出来レースなのではないかとさえ思えた。 「ちゃんと見てるよ」 まるで、愛の心の中を見透かしたかのように、扇子をバタバタとあおぐのをピタッと止め、真剣な表情で、坪倉が言い放った。 先ほどまでの気だるい感じはなりをひそめ、敏腕プロデューサーという雰囲気が漂っている。 オンとオフの切り替えというのだろうか、先ほどまでの気だるい雰囲気が、坪倉から全く消えてしまっていた。
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