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普段であれば傷心のまま、すごすごと、部屋を退出していた愛であったが、なぜか不思議と、その日だけは違っていた。
「あの……」
「ん?どうした?」
坪倉が、愛をいぶかしげに見つめた。
「あの……。あたしの……、あたしの何がまずかったんでしょうか?」
坪倉に、そんな質問をぶつけるなど、愛は、自分でも驚きだった。
愛は、納得がいかなかった。
本当に、坪倉は自分の演技をしっかり見てくれているのだろうか?
こう言っては失礼だが、坪倉はいい加減な感じがしたし、本当に自分の演技を真剣に見てくれているのか疑わしかった。
ヒロイン役の子はすでに決まっていて、この面接自体、元々出来レースなのではないかとさえ思えた。
「ちゃんと見てるよ」
まるで、愛の心の中を見透かしたかのように、扇子をバタバタとあおぐのをピタッと止め、真剣な表情で、坪倉が言い放った。
先ほどまでの気だるい感じはなりをひそめ、敏腕プロデューサーという雰囲気が漂っている。
オンとオフの切り替えというのだろうか、先ほどまでの気だるい雰囲気が、坪倉から全く消えてしまっていた。
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