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坪倉が、愛の目をじっと見据えながら語り始めた。
「自分に自信があるのは結構。この世界では、自分を信じることが大事だ。だが、実力が伴わない根拠のない自信は、うぬぼれでしかない。
セリフ回しや所作で、君よりうまかった子は、君が演じる前に、すでに二人いた。その二人を差し置いて、君を選ぶわけにはいかない。これで納得してもらえたかな、城崎さん」
「……はい」
真っ青な表情で、愛が坪倉に、なんとか返答した。
茫然自失のまま、ドアノブに手をかけた愛に、坪倉が声をかけた。
「美山さんの元で、しっかり芸を磨きなさい」
愛は、しっかり返事を返したように思うが、ショックのため、返事を返したのか返さなかったのかさえ、もうよくわからなかった。
愛は、よほどひどい表情をしていたのであろう。
ドアを開け、次の入室に備えて待機していた子から、
「大丈夫ですか?」
と、去りぎわに声をかけられたが、頷くのがやっとだった。
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