第1章 リアル

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(中途半端にアイドルを続けるぐらいなら、いっそのこと……) 愛は、アイドルを辞めるという最悪の選択肢まで考えてしまっていた。愛が、そんなネガティブな考えにとらわれながら、ガザゴソと自分のトートバッグを漁っていると、バッグの中からお守りが一つ出てきた。 お守りには、合格祈願と、赤い糸で刺繍が施されていた。そのお守りは、愛の数少ないファンの一人がくれたものだった。今度ドラマのオーディションに挑戦することを愛が告げると、わざわざ神社に行って、お守りを買ってきてくれたのだ。 お守りを買ってきてくれた男は、名を岩田と言った。お世辞にも、カッコいいなどとは言えない男であった。年齢は、30代後半ぐらいであろうか、秋葉系のフッションに身を包んだ、いわゆるオタクである。岩田は、とにかく献身的だった。愛が催すイベントの会場などには、必ず姿を現した。 何の仕事をしているのかはわからないが、平日などのイベントであっても、岩田は都合をつけて必ず愛の元へ現れた。自分の得た給料を、全てつぎ込んでくれているのではないかと思うほど、岩田は愛に対して献身的だった。
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