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昨年の秋に、念願のCDを発売したものの、売り上げは今一つ。
ならば、芝居の方で勝負してみようかという事務所の方針だった。
今年に入ってから、愛は様々なオーディションを受けてみたが、決まる役は主人公のクラスメイトといった、チョイ役のような物ばかりで、いまだ代表作となるような作品には出会えていない状況だった。
それだけに、次こそはと、愛が今回の面接に懸ける思いは強かった。
ガチャッと面接室のドアが開き、中から愛の前に面接を受けていた子が、ゆっくりとした足取りで出て来た。
表情から察するに、結果はあまり良くなかったようだ。
面接室から出てきた子とすれ違う瞬間、どうせあたしもこの子みたいに……と、愛の脳裏を一瞬弱気な気持ちがよぎったが、愛は、そんな気持ちを打ち消すようにブルブルと首を振り、不安を心の片隅に追いやった。
軽く一度ノックをしてからドアを開け、面接室の中に入る。
クーラーの調子が悪いのか、部屋の中は少し蒸し暑かった。
小太りの60代ぐらいの男性プロデューサーが、けだるそうに扇子をバタバタとあおいでいる。
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