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「自分は余り物でもいい。他の誰とでも掃除を共にできるし、どの場所でも嫌がらずに引き受ける。そんな完璧な自分を仕立て上げて他人に敬われたいだけなんでしょ?」
「違う、全然違うよ小林さん。敬われたいんじゃないんだ。みんなが僕を好きでいてくれるために、何でも引き受けたいんだ。利用されるんじゃない。頼りにされたいだけなんだ」
「みんなが全員拓海くんを好きになるわけないじゃない。八方美人っていうのよ。そういうの」
「わかっているさ。まだ二学期が始まったばかりだしそう見えるのも仕方が無いと思う。でもきっと、僕のことを好きになってくれるはずさ。だって僕はみんなが好きなんだから」
「人の心はそんなに単純じゃない。好きになるより嫌いになるほうが簡単なのよ。愛されるより嫌われるほうが簡単。ましてやそれが全員? あなたの世界と現実の世界は違う。拓海くんの虚構に付き合ってられるほど私は暇じゃない」
そう言い残し小林さんは教室へと戻って行った。その間もなく掃除時間の終わりを告げるチャイムが聞こえてきた。僕はただ、泡だらけのタイルの上で呆然と立っているだけだった。
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