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経緯はどうあれ、自分から首を突っ込んだのだ。途中で調査を投げ出す、という真似をしたくはない。
ーーもう少し、周辺を調べてみるか……
そう思い、楝がその場から動こうとしたときだった。
背後から、怒鳴り声が響いたのは。
「こらー!そこで何をしているー!!」
突如聞こえたその声に、楝が思わず声のした方向へと振り向くと、そこには憤怒の表情をこちらに向けた中年の男が立っていた。
心なしか、息を切らしているのは気のせいだろうか。
いや、それよりも。
この男は、なぜここにいるのだろうか。
彼女の記憶が正しければ、この男は夕刻ギルドの調査員と言い合っていた刑事のひとりだったはず。
夜間外出禁止令は行政から発せられる強制令。その効力範囲は、警察機関であっても例外ではない。
それなのになぜ、この男はこの危険地帯でこんな時間帯にここにいるのだろうか。
楝は内心、かけられた問いをそのまま男に投げ返してやろうか、と考えてしまった。
「貴様、現在三番街に夜間外出禁止令が発令されていることを知らんのか!おまけに立入禁止の場所に堂々と入りおって……。さては貴様、三番街の処刑人を名乗る悪党だな!」
なぜそうなる、と楝は心の中で突っ込んでしまった。思わずため息が漏れる。
「……ならば聞くが、おまえはここで何をしている?」
「何をだと!?貴様ーー」
「夜間外出禁止令は、発令こそ行政の判断に委ねられているが、それを公布する権限はギルドにある。たとえ警察であっても、ギルドがそれを公布した以上、従う義務があるはずだが?」
「うっ……」
男は言葉を詰まらせた。
こちらが正論を述べているが故に、反論することができなくなったのだろう。
「加えてここは夜、奴らが跋扈する危険地帯。にも関わらず、警察ともあろう者が護衛もつけずに出歩いているのか?」
そして楝は、鋭い眼差しでいった。
「おまえは、奴らを甘く見過ぎだ」
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