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十月三十一日。まぁ、それが欧米文化の風習で、日本でも徐々に祝われるようになったことは、俺もよく知っていた。街を歩けば一ヶ月前から飾りが売られ、お菓子も、食べ物もそのイベントに合わせた物へと変化していたし、テレビなんかでも仮装やらの報道がされてた。
けど、それはあくまで楽しむためのもの。特に企画もなく、日本でどこの誰が玄関先に立ってお菓子をねだるというのだろうか。
「とりっくおあとりーと!」
けれど、玄関を開けた先には白いシーツを全体に被った小さな何かが立って、しきりに手を出してくる。
どこの子どもなんだ。まったく教育がなっていない。
一人暮らしを初めて間もなくこんなことになるとは思わなかった。
「とりっくおあとりーと!」
「お菓子なんてないから、帰ってくれないか?」
ため息交じりに、でも子どもに本気になるなんてできないからなるべく優しく言った。つもりだ。
目の前の子どもは手を出したまま動かない。くれるものだとばっかり思っていたのだろう。だが、世の中そんなに甘くはない。
「とりっく?」
「あぁ、はいはい。イタズラは外でやってくれ。」
シーツの上からでもわかるくらい首を傾げる。けれど頭に乗せている何か、まぁ耳でもつけているんだろうけど、それがシーツを食い止めて落ちない。
帰る気がなさそうな子どもの体を回り右、させて背中を押す。外に出すつもりだ。
「とりっく!とりっく!」
子どもはばたばたと暴れながら抵抗する。その力は思ったより強くて、思わず本気で押した。
あっと思う間もなく子どもは前へと倒れこむ。
その時、シーツ俺の指に引っかかって倒れこむ子どもの中身がせり出る。
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