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いたずらが武勲になるようなことはない。そんなものはわかっている。ただ、何かを常識の範囲ではなく自分で成し遂げたいのだ。実力がともなわぬ者に、いったい誰が羨望の眼差しを向けるものか。お膳立てだけの感情でなく自分のそばにいるものはいったい何人だろうか。
「ネクロス王国第一王子、カイゼル・・・」
また口のなかで繰り返そうとして、やめた。冷たくて大きな淀んだ水滴が頬を打った。
「ふん、鬱陶しい」
暗く霞んだ城下を眺め、無性に苛立った。慌てて場内へ駆け込む兵士達をぼんやりと眺めていると、ふと、城門の前に兵士ではないものを見つけた。
「・・・なんだあれは?」
今までの鬱々したかたまりはたちまち好奇心に押し出され、こうなったらもう居てもたってもいられない。怪しいヤツならば、兵士が気づく前に捕まえてしまおう。冷たい雫が降り注ぐなか、少年はただ衝動に駆られて飛び出した。
「ああまたカイゼル様ったら」
もっとも、長年ネクロスに仕えているアルケインはカイゼルがまた衝動のままに行動したことに密かに気づいていたが。
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