赤髪の王子

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「うーーーわーーーっ!!!カイゼルさまですねぇぇぇっ!!!」 叫びながら、特製の罠に引っ掛かった臣下が追いかけてくる。今日の罠は自室の扉を開くと頭上に厨房からちょっと拝借した小麦粉がふりかかってくるものだ。休憩しにきた臣下が見事にかぶり、粉まみれである。 「はははっ!お前それでも強国ネクロスの将軍か!」 「お待ち下さい!僕だって今日という今日は許しませんよ!!」 「ははは!遅い、遅いぞアルケイン!!」 「あーっもう……」 幼いながら天才的な剣の腕前を持ち、性格は直情型、その内面を示すかのように炎のごとく鮮やかな赤い髪と、紅い瞳。 「ネクロス王国第一王子、カイゼル・ニーベルエンド・・・」 少年は一人、幾度となく言われてきた言葉を口のなかで転がしていた。アルケインはもうとっくに諦めたのか追ってこない。 ネクロス城の見張らし台の屋根の上。ここは開放的な気分になり、お気に入りの場所だった。しかし今頭上に広がる空には灰色の淀んだ雲が現れていた。 今年で歳は11。第一王子として生まれただけあってじぶんはおそらく何ひとつの不自由ない生活をしてきたのだろう。座学は好きではないが剣の稽古は自分なりに努力もしてきた。この間は自国の将軍にほんの少しだが傷を与えることもできた。 皆が自分を誉める。称える。中には取り入ろうとして近づくものもいるがそれはそれでかまわなかった。気に入らないのは、自分がいずれ王となる身で、未だ何一つ成し遂げたことがないことだった。 空気が湿気を含みはじめ、ずっしりと重く全身にのしかかっている。
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