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この世には、三つの世界が存在する
一つは“生界”
その名の通り、生者の魂が存在する世界
一つは“冥界”
生界で役割を終え、つまり“死”を迎えた魂の休息する世界
一つは“境界”
生界にも冥界にも属さない、その名の通り二つの世界の中間に属する世界。
死んだ魂が冥界に向かうための通り道でもある。
その境界を、“彼ら”は駆け、奮う。
生前の罪を改めたいがために、
愛するモノを守りたいがために、
自らの願いを、叶えるために
境界には、一つの月が昇っていた。真っ白で朧気な月が。
輪郭がはっきりしない月明かりの下、彼はいた。
白と黒だけで構成された境界に立つ彼には、色があった。そのせいか、モノクロの境界には不釣り合いだった。
そんな彼は建物にもたれかかり、口角を吊り上げ笑っていた。右手には色の着いた彼の相棒、左手には一枚の紙が握られている。彼の視線は、その紙に釘付けだった。
「スペードさん!」
ふいに、彼とは違う声が響いた。彼の視線が彼から声のした方に移される。
そこには彼同様、色の着いた青年がいた。
「シロちゃんも終わったみたいだね。お疲れ様。」
「その呼び方本当にやめてください!!」
彼の言葉に怒りながら、彼に近づく。
そして、彼が持つ一枚の紙に気づいた。
「それ何ですか?」
「写真。こっちの。」
「珍しいですね、あなたがそんなの持ってるなんて。誰のです?」
「シロちゃんの後輩候補。」
彼の言葉に、青年が動きを止めた。が、すぐに再び動き出す。
「どうせ、また素質だけで意欲なしの人でしょう。」
「ふふん、それはどうかな?」
彼の匂わせるような言葉に、青年は僅かに反応した。
「どういうことです?」
「ここんところ俺マークしてたんだよね、この子。そしたらさ、素質だけじゃなくメンタル面も…だよ。」
「…まだわかりませんよ。」
「じゃあ、シロちゃんも見に来れば?」
そう言い、彼は手に持つ紙を青年に向けた。
確かにそれは写真だ。黒髪長髪の少女がアップで写っている。
が、少女の周りには青白い光がゆらゆらと蠢いていた。
「絶対、あたりだよ。」
写真を青年に向けたまま、彼は心底楽しそうな笑みを浮かべた。
continue
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