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5月
桜の花が全部散って、ピンク色のドレスを着ていた木は緑色の服にそろって衣替えした。
桜の花の一生は短い。半月ぐらいで、もう終わっちゃう。
それが、私のいるこの三階の病室からはよく見られた。
生まれつき、私は心臓が弱かった。
そのせいで、私は今まで普通の生活をしたことが無い。
お父さんもお母さんも、「体に悪いから」って、一度も私を自由にしてくれない。病院から出ることも、まともにできない。
唯一の楽しみが、馴染んだ病室から季節の変化を見ていることだった。
その馴染んだ病室のある病院から離れて、もう半年。
家の近くにあった小さな、だけど信頼のある病院に、それまで私は入退院を繰り返していた。
だけど難しい手術をするということで、私はこの大学病院に移された。体力の回復のために、移ってからの半年間ずっとこの病院にいる。確かに病院自体はキレイだけど、都市内の病院だから見られる自然が少ない。
面白くない。
「如月さん。如月沙羅さん。」
窓の外を見ていたら、ドアの向こうから声がした。すっかり馴染んでしまった、看護婦さんの声。
「どうぞ。」
そう言うと、看護婦さんは入ってきた。
「あら、また如月さん外を見てたの?」
「暇でしょうがなくて。」
「ならテレビでも見る?」
「見飽きちゃったので…」
「そうね~…じゃあ、天気も良いし庭を散歩してきたら?今日は体調も良いし。」
「庭…」
看護婦さんの言葉に、私は窓から庭を見下ろした。
私のいる病室の下は、病院の中庭が見下ろせる。確かに天気も良いし、その割りには出ている人も少ない。散歩にはぴったりの日だ。
「あ…」
ふと、庭にいる人に目がいった。
庭の中心には、大きな木がある。でも登ったりする人がいるから、いつもはロープで仕切って誰も近づけない。
その木の根元に、一人の男の子がいた。
男の子はロープを我が物顔で飛び越え、木の根元で転がっている。だけどそれを注意する人はいない。
何より、男の子は体が半分透けていて、足は全く見えなかった。
間違いない。
「看護婦さん。」
「なぁに?」
「庭に、散歩に行ってきます。」
「行ってらっしゃい。体には注意してね?」
「はい。」
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