Let's begin the story

3/11
前へ
/26ページ
次へ
庭に出てさっき見ていた木に近づくと、そこにはさっきの男の子がいた。やっぱり男の子の体は半分透けて、足は足首辺りからぼやけて見えない。 それなのに、周りの人は全然騒がない。男の子の姿が、見えていない。 「こんにちは。」 私が声をかけると、男の子はそれまで転がっていたのが嘘みたいに動きを止めた。びっくりした顔で、私を見つめている。 「ダメだよ、僕。いくら見られないからって、こんな所に入っちゃ。」 「………おねえちゃん、僕が見えるの?」 ロープのすぐ傍に立ち、しゃがみこむ。男の子が手を伸ばせば触れるくらい近い。 「見えるよ、僕のこと。」 そう言うと、男の子は心底びっくりした。口があんぐりと開いている。 「出ておいで。おねえちゃん、暇なの。お話しよ。ね?」 言いながら、出来る限りの笑顔を浮かべる。 男の子はまだびっくりしていたけど、頷いてくれた。 私は、心臓の弱さを抜いても普通じゃない。 生まれつき、普通の人には見えない物や人が見える。 病院で読んだ本を見て、わかった。それらが幽霊だということに。 別に心臓に負担は無かった。物心つく前から見えて、それが普通になっていたから。 でも、それをお母さん達に言ったことはない。なんとなく、言っちゃいけない気がしていたから。 時々、ほんの時々だけ、怖い思いをしたこともあった。でも、今思えばそんなに大したことじゃない。 だから見えるのが嫌だとか、怖いとか思ったことはほとんどない。 「死んだら、ああなるんだ」と思うだけ。 もう少し先の、私の姿。 ずっと独りだった私の、唯一の心の拠り所だもの。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加