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庭に出てさっき見ていた木に近づくと、そこにはさっきの男の子がいた。やっぱり男の子の体は半分透けて、足は足首辺りからぼやけて見えない。
それなのに、周りの人は全然騒がない。男の子の姿が、見えていない。
「こんにちは。」
私が声をかけると、男の子はそれまで転がっていたのが嘘みたいに動きを止めた。びっくりした顔で、私を見つめている。
「ダメだよ、僕。いくら見られないからって、こんな所に入っちゃ。」
「………おねえちゃん、僕が見えるの?」
ロープのすぐ傍に立ち、しゃがみこむ。男の子が手を伸ばせば触れるくらい近い。
「見えるよ、僕のこと。」
そう言うと、男の子は心底びっくりした。口があんぐりと開いている。
「出ておいで。おねえちゃん、暇なの。お話しよ。ね?」
言いながら、出来る限りの笑顔を浮かべる。
男の子はまだびっくりしていたけど、頷いてくれた。
私は、心臓の弱さを抜いても普通じゃない。
生まれつき、普通の人には見えない物や人が見える。
病院で読んだ本を見て、わかった。それらが幽霊だということに。
別に心臓に負担は無かった。物心つく前から見えて、それが普通になっていたから。
でも、それをお母さん達に言ったことはない。なんとなく、言っちゃいけない気がしていたから。
時々、ほんの時々だけ、怖い思いをしたこともあった。でも、今思えばそんなに大したことじゃない。
だから見えるのが嫌だとか、怖いとか思ったことはほとんどない。
「死んだら、ああなるんだ」と思うだけ。
もう少し先の、私の姿。
ずっと独りだった私の、唯一の心の拠り所だもの。
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