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「ふーん。僕、拓真君っていうんだ。」
「うん。風間拓真、9歳だよ。」
「私は如月沙羅。17歳。」
「じゃあ、沙羅ねえちゃんって呼んでいい?」
「いいよ。」
木から木陰のベンチに移動し、私は拓真君と話していた。
幽霊と話すなんて、今では日常茶飯事だ。
「拓真君はいつ幽霊になったの?」
「えっと…桜が咲いてた頃。」
「じゃあ、1ヶ月前?」
「多分、そのくらい。」
「どうして幽霊になっちゃったの?」
「僕、家族でお花見に行ったんだ。その時僕はボールで遊んでて、転がっていっちゃったボールを拾おうと道路に出たら車が来て、気がついたらお化けになってた。」
「そっか。」
拓真君の死因は、きっと交通事故だ。ボールを取ろうとして、車に跳ねられて即死。今までに会った小さな幽霊の死因の典型的なパターンだ。
「拓真君、何かやりたいことがあったの?」
「え?どうして?」
「幽霊になる人は、ほとんどがやりたかったことがあったまま死んじゃった人なんだ。だから。」
「うーん…僕、お兄ちゃんになりたかった。」
「お兄ちゃんに?」
「うん。お母さん、僕が死んだ時お腹に赤ちゃんがいたんだ。もう少ししたら生まれるって。そしたら僕はお兄ちゃんだって。」
「そっか…拓真君は、新しい家族に会いたいんだね?」
「うん…僕、会いたい。男の子でも女の子でもいいから、お兄ちゃんになりたかった。」
そう言う拓真君は、今にも泣きそうな表情だった。
本当に、心の底から楽しみだったんだな…
「拓真君、お家の場所覚えてる?」
「?うん。」
「なら、会いに行けばいいよ。」
「え?」
「もう生まれてるんでしょ?だったら、会いに行けばいい。」
「でも、僕は見えないし…」
「大丈夫。赤ちゃんはね、普通の人には見えない物や人が見えるんだ。もちろん拓真君も。」
「本当!?」
「うん。ほら速く行っておいで。でないと本当に見えなくなっちゃうよ?」
「うん!行く!」
そう言い、拓真君はベンチから飛び降りた。
そのまま行くかと思ったけど、くるりと振り向いた。
「沙羅ねえちゃんも行こう!!」
「え?」
「僕の家族に会わせたいんだ!」
「……ごめんね、私は行けない。行けないんだ…」
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