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中庭を飛び出した拓真君を見送り、私は再びベンチに腰かけた。
心臓がある左胸に手を当てる。ドクン、ドクンと、定期的な、でも弱い心音が伝わってくる。
私は生きている。
なのに、幽霊の拓真君のように地面を転げ回ることも、自由に走り回ることもできない。
これじゃあ、生きていたって何の意味もない。
死んだら、きっと幽霊になるか消えるかのどちらか。
私は生きていることに未練はない。
だから、きっと消えるだけ。それならさっさと消えてしまいたい。
「晴天の下に女の子の曇り顔とは、似合わない組み合わせだね~。」
「!!」
突然、知らない声がした。驚いて、それまで弱く脈打っていた心臓の鼓動が大きくなる。
二・三回深呼吸して発作を防ぎ、辺りを見渡す。でも、周りには人も幽霊もいない。
「空耳…?」
「ここだよ、ここ。」
「?」
声が、さっき拓真君がいた木から聞こえた。
見ると、たくさんの葉っぱを掻き分ける音と共に男の人が木から降りてきた。
オレンジ色がかった赤いミディアムヘアーに白い肌、すらりと伸びた長い手足に、肌とは対照的な真っ黒のスーツを着ている。一瞬女の人かと思ったくらいキレイな顔立ちの人だ。
「誰…?病院の関係者じゃ、ないですよね?」
「あたり。でも警戒しなくていいよ。びっくりさせてごめんね。」
言いながら男の人は近づいてくる。思ったよりずっと背が高い。多分180はある。
よく見ると、男の人は緑色の目をしていた。葉桜のような、でも海のようにも見えるエメラルド色の目。
(外国人かな?キレイな人…)
ぼんやり考えていたら、男の人はいつの間にか目の前にいた。
と思ったら、男の人の手が私の頬に添えられた。
ヒンヤリした冷たい手。
低すぎる体温に少し驚いていると、じっと見つめられていることに気づいた。
「ふーむ……」
「え、あ、あの…?」
こんな風に触れられていることも見つめられていることも慣れていないから、どぎまぎしてしまう。
男の人はそれを知ってか知らないでか、私から視線を外さない。表情は何か考えているようだ。
「やっぱりね…」
「?」
男の人が呟いた気がしたけど、よく聞き取れなかった。
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