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「スペードさん!」
ふいに、これまた聞いたことのない声がした。驚いて心臓が大きく脈打つ。
男の人の手が離れた隙に、深呼吸して発作を抑えた。
「あ、シロちゃん!遅いよ、もう。」
「だからその呼び方やめてくださいって言ってるでしょう!!」
目を向けると、見知らぬ男の人が怒りながらこっちに駆けてきた。
赤い髪の人とは違い、普通の黒髪に黒い目、ジーンズにシャツの人だ。赤い髪の人より若く見える。もしかしたら私とそんなに変わらないかもしれない。
「えー?シロちゃんはシロちゃんじゃん。」
「僕には滝川志郎っていう、ちゃんとした名前があるんです!なんですかその猫みたいな名前は!」
「あの…」
「あ、ごめんごめん。ほら、シロちゃんが怒鳴るからこの子が怖がってるよ?」
「あ、そんなんじゃ…」
「スペードさん!関係ない人巻き込んで誤魔化さないでください!!」
シロちゃんと呼ばれた人は、スペードさんと呼ばれた人に更に怒鳴ってくる。
怒っているシロちゃんさんに対し、スペードさんはニコニコした表情を変えない。二人の温度差が違いすぎるくらい違う。
「まあまあシロちゃん落ち着いて。ほら、まずはこの子に自己紹介しよっ。」
「ハァ…わかりましたよ。はじめまして、僕は滝川志郎といいます。僕の上司がご迷惑をおかけしました。」
「シロちゃんひどーい。俺は上司のスペード・F(フレイム)・シャドウ。セカンドネームで呼ばれるの好きじゃないから、気軽に『スペード』って呼んでね。」
「え?あ、はぁ…」
突然自己紹介され、私は戸惑ってばかりだった。
(スペードさんやっぱり外国人?すごい名前…)
「で、君は?」
「あ、すみません!如月沙羅といいます。」
スペードさんの言葉に、私は慌てて名乗った。
そして名乗った後に後悔した。
滝川さんはともかく、スペードさんは怪しい。怪しすぎる。
そんな相手に、本名を告げてしまった。これは非常にマズイのでは…
心臓がまた大きく脈打つ。深呼吸しながらどうしようかと頭を働かせる私に、スペードさんが話しかけてくる。
「あ、沙羅ちゃん俺達のこと怪しいって思ってるでしょ。」
「いえ、そんな!」
「だーいじょうぶ!俺達不審者じゃないから!」
「はぁ…」
軽い調子で言うスペードさんに、私は気が抜けてしまった。
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