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「やったーできた」
こんな数少ない文字のために何時間こうやっていたのかな。
「すっかり暗くなっちゃったね」
香川くんは疲れたのか私の問い掛けに何も答えてくれず、黙ったまま帰る支度をしていた。
私は消しゴムの消しくずを机の隅に集め、それをどうしようか悩んでいると‥‥‥
「ほら」
と、香川くんが左右の掌をくっつけて机の角に手を添えてくれた。
「あ、ありがとう」
近距離にいる香川くんは机の高さに合わせて腰を低くしてくれている。
私は指で消しくずを香川くんの大きな掌へ落とす。
それを溢さないようにごみ箱へ運ぶ姿に、優しいんだな‥‥‥って思わず見惚れてしまった。
向い合わせだった机を元の位置に戻し、机の横に掛けてあった鞄を手に取ると、
「帰ろう」
「えっ?」
「だから帰ろうって」
帰ろうって意味はわかるよ。
周りに人がいないから私に言ってるのもわかる。
帰ろうって言ってくれたってことは、一緒に帰ろうって言われてる?
ま、まさか。
私ったら勘違いしちゃって。
「電気消すぞ」
すでに香川くんは入口に立っていて電気のスイッチに手を掛けていた。
「あ、うん」
真っ暗な教室に取り残されるのは嫌だと思い、私は香川くんの所まで小走りで行った。
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