仕事

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「あ、母さん!また新しいしゅしょーが決まったみたいだよ!」 僕はまだアナログの古ぼけたテレビに指を指していう。当時5歳。 「あらあら…。また変わったの?」 台所で洗い物をしてた母は濡れた手をタオルで拭きながらテレビの前へとやってくる。 「日本も本当におしまいよねぇ…。こんなに不安定だって言うんならさ。首相なんてコロコロ変えるものじゃないって言うのにさ。」 母は呆れ顔をしながら、手を腰に当ててその疲れきった目でテレビを見る。 「あ、なんか演説始まるみたいだよ!」 画面にはマイクの位置を少し調整し、堂々とした面持ちをしている人が映される。 『えぇ…。私はこの度第××代目となる首相に選ばれました、Vです。諸事情があり本名は教えることができません。』 本名を言わない新首相に対し、会場にざわめきが起きている間に僕は母に尋ねた。 「この人‥日本人?」 「え‥?あぁ、この人はね‥ハーフかな?」 「ハーフ?」 「そう、外国人の人とね、日本人の人との間で生まれた人なのよ。」 「へぇ‥。だからこんなにおっきくて、目も黒くなくて、髪がへーんな色してるんだぁ。」 「そうよ。あ‥演説続けるみたい。ちょっと静かにしてね。」 「はぁい。」 僕は再び首相の肩から上が映されている画面の方に視線をずらす。 『えぇ‥少しざわついてはいますが、続けます。私はこの日本の首相を勤めさせて頂く際、ある法案を提案したいと思います。』 Vはそう言ってからある紙を手に取り、それを見ながら続けた。 『えぇ‥私が提案したい法案は"社会人救済法案"。これは、日頃上司にこきをつかわれ、疲れ、ストレスが溜まっているであろう皆さんのために私が考えているものです。詳細は現時点ではお教えできませんが、どうぞ心待ちして頂ければと存じるところです。』 Vがしゃべり終えたとこで、テレビの生中継は途絶えた。
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