仕事

5/5
前へ
/5ページ
次へ
「はぁ…。」 帰りの夜道、僕は一人溜め息をついた。 今日は30万円をもらえた。 だが…。 だが結局税金やなんやかんやで残るのは15万円いくかいかないか。 しかもこの15万円もすぐになくなる。 自分のために使うお金などない。 僕はもう理解している。 人間は欲まみれで勝手だということを。 この夜道の先に待っているのは地獄。 僕の心を落ち着かせられる場所は仕事場だけなのだ。 仲間のいる仕事場。 "帰宅" この言葉が僕の胸を苦しめる。 なぜなら‥。 僕は立ち止まって、目の前に見える立派な一軒家を睨む。 ポケットからカギを取り出しながら、その一軒家へと近づく。 心構えは十分だ。 扉に手をかける。 手をかけたときに聞きたくない笑い声が聞こえた。 鍵を開ける。 ドアノブに力を込める。 その時のガチャ‥。という音がなると途端に笑い声が止む。 気付いたか。 諦めた僕は扉を開いた。 目の前にはやはり‥。 「都志夜ふん、おはえりぃぃ!」 ヘラヘラした我が母がいた。右手にはビールの缶。左手にはつまみらしきカスがこびりついている。 また酒か。 「仕事おつかれしゃん!」 呆れる僕にお構いなしかのように右手のビールの缶を上げる。 「わざわざ出迎えてなんだよ!」 僕は強い口調で言った。 理由なんてわかっている。 だが聞いた。 「わかってんれしょ!ほら!」 母はにっこりと赤く染めた頬を上げながらカスがついてる左手を出してきた。 気持ち悪い。 「なんで朝から夜まで働いている僕が、何にもしてないアンタにアレをださなきゃならないんだ?」 怒りを母へとぶつける。 その怒りは彼女の心にこれっぽっちも響かないことを知っていても。 「うっさい。」 母は僕の言葉を聞いて間もなくそう言い放ち、右手のビールの缶の中身を僕にぶちまけた。 ‥臭い。 臭い上に制服が汚れてしまった。 洗うのは僕なのに。 これ以上の被害を避けたい僕は諦めて、税金代を引いた15万円を母に渡す。 ‥屈辱だ。 だが反抗することはできない。 反抗したことが父さんに知れたら殴られるどころじゃない。 しかも困ったことにVのせいで親が子供を殴ることも許される世の中になってしまっている。 僕は店長たちから聞いている。 昔は今よりずっと平和で、素晴らしい世の中だったと。 悔しさを胸に、僕は自分の部屋へと歩を進めた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加