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「・・・・・・」
翔は、俯いて黙ってしまった。
・・・俺では役不足なのだろう。
「話したくないなら、聞かない。・・・まぁ、ゆっくりしてけよ。」
「・・・・・・猫がね・・・」
「えっ?」
翔を残し部屋を出ようとすると、呟くような声が聞こえる。
俺は掴んでいたドアノブから手を離し、翔の正面に座った。
「・・・猫が死んだんです。」
俺は、俯いたまま話し始める翔の声に耳を傾けた。
「オレ、猫飼ってたんです。その猫ね、オレが10歳の時の誕生日に、共働きで忙しかった両親が寂しくないようにって言って・・・
あまり、家に居れない事を申し訳なく思ってたみたいなんです。
兄弟もいなかったし。
でもオレ、仕事してる両親を尊敬していたし、休みの日には目一杯遊んでくれたから、寂しいなんて思ってなかったんですけどね。
でも、両親がオレの事を考えてくれたって事がすげー嬉しくて。
オレは、益々両親が好きになりました。ホントに幸せだった・・・」
「・・・・・・」
翔は、『だった』と言った。
つまり今は・・・
「ック・・・」
翔の口から嗚咽が洩れる。
「無理して話さなくて良いぞ。」
俺は苦しそうにしている翔の横に座り、背中をさすった。
「スミマセン・・・でも、センパイには聞いてほしくて・・・」
「分かった。ゆっくりで良いからな。」
「ハイ・・・」
翔は、何度か深呼吸をして、話しを続ける。
「誕生日のすぐ後でした。両親は・・・・・・事故に・・・巻き込まれて・・・・・・二度とオレの所に・・・帰って来る事はなかった・・・」
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