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それは十六夜の夜のことだった。
仄暗い月明かりに照らされて、巨大な寝殿造の屋敷がぼんやりと浮かびあがっていた。
その屋敷の四方を囲んだ築地塀の上には、ひとりの少女。
粗末な身なりに身を包み、膝を抱えるようにしゃがんで座っていた。
一つに束ねた長い髪が、冷たい風に誘われてさらさらと揺れた。
「ーーさぶいのう」
誰に聞かせるともなく、呟く。
「こんなところにいたのか」
不意に、少女は背後に人の声を聞き振り返った。
黒づくめの衣を纏った、背の高い男の姿があった。ああ、と短い返事をして少女は屋敷に向き直る。
「美しいものだな」
男の視線の先には、寝殿の正面に造られた大きな池。
真白い月影が、水面に映って儚げに揺らめいていた。
少女はその情趣ある光景を、目を細めて眺めた。
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