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アップにまとめた黒髪、繋がりそうな濃い眉毛、強烈な眼光を持つ目、固く引き結ばれた口元にはうっすらと口髭らしい物が見える。その自画像の書き手の名を思い出したと同時に紫苑の声が聞こえた。
「フリーダ・カーロ、複製やけど、本物は小枝子さんのオフィスにあるわ」
小枝子さんて誰?と一瞬思ったが、彼女の母親である事を思い出した。
「商売の種か?」
「まぁね、でもこれはあの人の趣味で掛けてるの、私も好きやけど」
幼い頃に受けた傷と、愛する者の不実に悩みながら、毒々しいまでの美の華を咲き誇らせた女流画家が、紫苑のお好みに会うとは、しかし壬生は余り意外に思わなかった。
たかが犬猫の為に刑事と取引しようと言う少女の頭の中は、情熱の女流画家もびっくりの激しい情念が居座っているに違いない。
「スーツ、よう似合うてるやん、その方が刑事らしぃ見えるで」
彼女の口から初めて人を褒める言葉を聞いた。
「自分も制服、板に着いとったで、」
「あ、そう言えば学校来てたんや」
せっかくのお返しを気のない返事で返した彼女の姿は虎縞を模した迷彩色のTシャツに七分丈のカーゴパンツ、シャツのプリントは何故かホー・チィー・ミンだった。
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