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そんなたわいもない会話をしながら幸せそうに歩く親子は
目的の道場にたどり着いた。
『さぁ柚子。ここよ。』
母は柔らかな笑顔を浮かべて
柚子に話しかける。
『この道場は試衛館といってね?
父様のお知り合いの方の道場なのょ。
今は若先生が教えてらっしゃるけど…大先生は父様のお師匠様。
粗相のないようにね?』
父様のお師匠様っ!?
絶対いい子にしてなきゃっ!
『はいっっ!!柚子いい子に
してますっ!!』
母はいきなり緊張気味になった
柚子を見てクスクス笑ってしまった。
『それでは大先生に
ご挨拶に行きましょうか♪』
『は、はいっ!!』
まだ柚子は緊張気味。
父に嫌われたくないから
その父のお師匠様にも嫌われる様なことは絶対にしてはいけない。
という決意のせい。
勝手にお師匠様は
強面の鬼を想像して
勝手に怖がっている。
『柚子ー!?早くいらっしゃい!!』
母は玄関のところから
柚子を呼んだ。
柚子は急いで母に駆け寄った。
と、その時玄関が開く。
そこには
母より一回りほど年上であろう
女性が立っていた。
『お栄さんっ!!
ご無沙汰してます。
お沙弥です。』
『まぁっ!沙弥ちゃん!!
待ってたよぉ!!』
女性は母と親しそうに話している。
(誰だろう…?)
不思議そうに二人を見ていた柚子に母が気が付き手招きをしながら
『柚子。この方は大先生の奥様。
お栄さんよ。
お栄さん。
この子がうちの柚子です。』
大先生の奥様!!?
柚子に緊張が押し寄せる。
『はっ、初めましてっ!!
今日からお世話になります!
なっ南野っゆ、柚子ですっ!!!
5つになりましたっ!
よっ、よろしくお願いいたします!!』
緊張して上手くしゃべれてない。
母は笑いを堪えて震え
お栄は口を開けて呆然と
柚子をみつめている。
(あ…失敗しちゃった…)
柚子はお栄の顔を見て
自分のご挨拶が情けないものだったと思い込み顔が青ざめる。
『ふっふぇっ……』
母は(あっ、まずい…)
と思ったが時すでに遅し。
『ぅぁぁあわぁぁんっっ!!!!!
かぁ様ぁぁごめんなさぁあいっ!』
恥ずかしいのと悔しいのと
自分に対する怒りと
母に対する申し訳なさと…
色んな感情がごちゃごちゃになって頭がいっぱいになった柚子は
大泣きしながら
その場から逃げ出した。
後ろから『柚子っ!!』と
母が呼ぶ声がしたが
恥ずかしいあまり振り向かずに
全速力で逃げ出す。
あっという間に柚子は
母とお栄の視界から遠ざかった。
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