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そんなある日、私は気づくと学内の教会に来ていた。
無人の教会はとても静かで落ち着いていて、私の心を癒してくれるような気がした。
そして、自然と私は、故郷に思いを馳せていた。
村では、週の終わりには村人が教会に集まり、みんなでお祈りを捧げて、その後には讃美歌を歌っていたものだった。
私は讃美歌を歌うのが好きだった。
村に文字が読める人は殆どいなかったから、歌詞は代々口頭で語り継がれているだけの、でたらめな讃美歌。
神父様は優しくて、そんな村の風習を咎めることなく、みんなのびのびと自由に、楽しく歌っていた。
そんなに時間が経っていないはずなのに、あの頃が懐かしい。
そのうちに私は、自然とあの讃美歌を口ずさんでいた。
「―おや、人がいるとは」
急に聞こえた人の声に、私は驚き振り向く。
時間が、止まったような錯覚。
教会の入り口には一目見ただけでも高位と分かる法衣に身を包んだ、神父様が立っていた。
優美な佇まいに、端正な顔立ち。
その微笑みに、私は一瞬にして心を奪われてしまった。
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