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「そうですか、それで教会に」
神父様は、緊張してしどろもどろになっている私の話を、終始穏やかに聞いてくれた。
「貴女は強く、優しい。
けれど、たまには立ち止まることも良いことでしょう」
神父様はそれだけ私に告げると、小さく祝福のお祈りを施してくれた。その動作一つ一つが、とても優美で、神聖なものに見える。
そして何よりもその一言だけで、私は心が洗われるような気がした。
「そういえば先程讃美歌が聞こえましたが…」
「あ、あれはっ」
でたらめな讃美歌を聴かれていたことが分かって、私は急に後ろめたい気持ちになる。
お叱りを受けることを覚悟して、私は讃美歌のことを打ち明けた。
「成る程」
神父様は少し思案顔をしたかと思うと、すぐに優しい笑みを浮かべた。
「貴女さえよろしければ、正しい讃美歌をお教えしましょう。
勿論、貴女の故郷のものと全く同じ…とはいきませんが」
「よ、よろしいのですか…?」
思ってもいない返事に私は驚愕してしまった。
「えぇ、故あってしばらくはこの教会に滞在する身です。
貴女の憩いの場を奪ってしまう代わりに」
少し申し訳なさそうにそう言う神父様に、私は慌てて首を振る。
こんなに幸運なことはないと思えた。
このときほど、私は神様に感謝したことはなかった。
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