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教会に据え置かれたオルガンを神父様が奏でて、私が讃美歌を歌う。
讃美歌の節も残り僅か。そうでなくとも、いつか神父様は戻られてしまう。
こんな日々もいつかは終わってしまうのかと思うと、悲しい気持ちが溢れてきた。
「何か気がかりでも?」
そんなことを考えていたら、神父様が心配そうに私の顔を見つめていた。
「い、いいえ」
こんな気持ちを打ち明けることなど出来はしない。打ち明けたら罪深い私を神父様は許さないだろう。
だから、私はこの気持ちは心に押し留めようと決めた。
そのとき、私の頭にあの古びた聖書のことがよぎった。
いまだに私には読めないあの聖書。神父様だったらきっと読めるに違いない。
私はそう思い、神父様に聖書のことを話した。
「分かりました。読めるか解りませんが…それでも良いのでしたら」
神父様はいつもと変わらない笑顔でそう答えてくれた。
私は聖書を取りに駆け出す。
一節でも良い、神父様にあの聖書を読んでほしい。最後の思い出に、大切なあの本を読んで貰おう。
それだけのことがとても嬉しくて、思うだけで心が暖かくなった。
このとき私は理解していなかった。
原罪の果実は、その味を知ったこと自体が、罪だった。
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