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私は部屋へ戻り聖書を手に取ると、急いで教会へと走った。
はやる気持ちを抑えながら、教会の扉を開く。
「これですか」
神父様はいつも通りの優しい笑みで聖書を受け取ってくれた。
優しい手つきでページを捲る。私はそこからどんな言葉が語られるのか楽しみで仕方がなかった。
しかし―
聖書を捲る神父様の表情が険しくなる。
そして、憎々しげにそれを祭壇に叩きつけた。
「これが、聖書だと」
あまりの豹変に私は言葉が出なかった。
神父様の表情はまるで悪魔でも見ているかのように恐怖と、怒りの感情に染まっていた。
「これは…こんなものは、悪魔の書だっ!」
そう言うと、神父様は聖書をランプの火に近づけた。
火は瞬く間に聖書を包み、それを灰にしてゆく。
「あぁっ!!」
私はたまらず叫び、神父様に掴みよっていた。
それは、村の大切な思い出と、みんなの思いが託された、大切な本なのだ。
グリモワールなんかではない、私にとって只の、大切な、ただの一冊の本。
それが、それが灰になって逝く―
「触れるな、邪教徒の娘!」
神父様に触れた瞬間、強い力で突き飛ばされた。
私はたまらず床に倒れてしまう。
それでも、私は涙ながらに本を返して欲しいと乞う。
神父様が何か言っているが、私には聞こえない。
やがて神父様は私を振りほどき、教会から出て行く。
燃えかけの本が投げ出され、私は必死で火を消そうとする。火傷する手なんて、気にすることもなく。
―すべてが過ぎ去った後
気がつけば、私は無人の教会で、一人焼けた本を抱き、泣いていた。
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