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神父はいつの間にかあの教会に戻ってきていた。
不思議な感覚だった。
扉の中の世界で、神父は傍観者であった。それは物語を読むようなもの。
しかし、彼女の体験が、まるで自分が体験していたかのように感じられた。
戻ってきた瞬間、形容し難い感覚が神父を襲った。
「どうですか、彼女の罪は。
娼館という色欲の罪溢れる場所に落ちた彼女は、罪深いでしょう」
振り返ると、涼しげな顔で男が立っていた。
純白の男が神父に尋ねる。
「色欲の罪…そう呼ぶには彼女の罪は余りにも残酷です」
彼女の聖書は、確か宗派の違う古い物だったように見えた。それが異教とされることはある。
しかし、ただ無知であっただけの彼女が、色欲の罪を負う理由にはならない。
神父は、扉の傍らに佇む仮面の少女に向き直る。その姿に、扉の先で見た少女の面影はない。
「貴女がその罪の名を冠することはありません。
色欲の罪を背負うには、あなたの命は余りに清廉すぎる。
故に、私は貴女を許します。
そして、神も貴女を救うでしょう」
神父は仮面の少女にそう告げるが、彼女は微動だにしなかった。
「赦されざる逆十字のこの教会で、
今、一つ目の罪が赦された!」
純白の男が、そう告げる。
「さあ、次の扉をお選び下さい…」
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