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その日、僕は夕飯のパンもこっそり隠し持とうとした。けれど、シスターに見つかってしまった。
孤児院だってお金があるわけじゃない。食べ物だって限りがある。
だから、仕方ないことだと諦めるしかなかった。
「ティト!」
肩を下ろして歩く僕にミリィが声をかける。そしてにやりと笑ってみせた。
ミリィはおもむろにスカートの中をごそごそしたかと思うと、隠しポケットから、パンを取り出してみせた。
「ミリィ…」
「おっと、まだ喜ぶのははやい!
…今日のこと教えてくれたら、あげる!」
「ちゃっかりしてるなぁ、もう」
僕は苦笑しながら、ミリィに今日見たことを打ち明けた。
ミリィはやっぱりにこやかに僕の話を聞いてくれた。
というか、多分、ミリィには全部お見通しなのかも知れない。
「それじゃあ」
ミリィは話を聞き終えるや否や僕を裏口へと引っ張ってゆく。
「ティトのしたいことなんて分かってるんだから。
いってらっしゃい、パンは明日まで隠しておけないでしょ?」
「ミリィ、ありがとう!」
僕はパンを受け取ると、貧民街へ駆け出した。
ミリィが後ろで励ましてくれている。
きっと僕たちは同じ気持ちだった。
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