26人が本棚に入れています
本棚に追加
/108ページ
それから僕は毎日のように貧民街へと通った。朝食や夕食のパンを隠し持って。
でも、それだけで足りる訳がない。僕は急いだ。働いて、お金を稼がなくてはならない。
はやく、自分で稼いだお金で、子供達みんなに十分なパンをあげたかった。
ミリィとは、いつか僕たち二人が、貧民街の子供を育てる孤児院を作れたら、なんて夢を語っていた。
けれどやっぱり、働かせてくれるところは、なかなか見つからなかった。
そんなある日。
「にーちゃん!」
「ティト!」
貧民街に行くと、子供達が一斉に僕に走り寄ってきた。
みんな狼狽え、目に涙を溜めている。
「クレアが…クレアが…!」
僕はクレアのいる場所へと駆けた。
そこには、目を開く事も出来ずぐったりと横たわるクレアと、その手を握りしめる兄の姿があった。
その兄は、僕を見るとすぐさま走り寄る。
「にーちゃん、クレアを、クレアを助けて!」
僕は無力感に打ちひしがれた。
僕にはお金がない。クレアを医者に連れて行く事も出来ない。
すがりつく少年の瞳が胸に痛かった。
僕は孤児院へと駆けた。
そして孤児院の台所へと走る。
そこには、今日のみんなの食事の材料があった。パンに果物、野菜にミルク。
考えている暇なんてなかった。
僕はそれらを抱えられるだけ手に持って、シスターの静止を振り切って、貧民街への道を駆け出した―…
最初のコメントを投稿しよう!