第三の扉 ―強欲―

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ある日、見るもの全てが見惚れる、魔性の美貌を持った娘が産まれ落ちた。 しかし、奇しくもそれは、とある没落貴族の妾の子。 娘は、貴族達の欲望渦巻く世界へ落ちることとなった。 私は、地位や名誉、煌びやかな洋服や宝石、そんなものを望んだりしたことはなかった。 望んだことは、ただ静かに生きたい、それだけだった。 「昨日お会いした公爵様が、いたく貴女を気に入っていたわよ」 母は毎日のように、私を社交場に連れ出しては、高位貴族に私を紹介した。 私が許されるのはただにこにこ笑っていることだけ。 母は貢ぎ物から選りすぐりの美しい衣装と宝石で私を飾り立て、私の美貌を自慢する。 母は、ある名高い貴族の娘だった。けれど、嫁がされた先は今の没落した家の妾。 母は元の生活に戻るため、必死だった。 だから私の望みとは裏腹に、貢ぎ物の宝石やドレス、賛美の言葉だけが私に与えられた。 もちろん、妬みや恨みも同じくらい与えられた。 恋なんて知らなくて良い、没落していようが商家だろうが、さっさと嫁いでしまいたかった。 そうすれば、今の生活にお別れが出来るのに。 けれど私の望みが、大人達の駆け引きの最中で気にされることなんて、あるわけがなかった。
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