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けれどそんな私たちの事情なんて、お構いなく進んでいくのが貴族様だ。
「サーシャ!ギルベール卿の御子息が、貴女を大層気に入ったそうよ!」
私の自室を訪れると、いつになく興奮気味に母はそう言った。
ギルベール…確か、王家に連なる大貴族のひとつだった気がする。
「それは良かったわ、お母様」
私はいつも通りに返事をする。
なるほど、これで縁談話でも来れば母の願いは殆ど叶ったも同然だった。
「あぁ、サーシャ、ギルベール卿にお会いして?」
「もちろんよ、お母様」
私はにこやかに微笑む。
誰であれ嫁いでしまいたい、そうすれば今よりはずっと良い、そう思っていた。
けれど、そんな私は浅はかだった。
それから私はギルベール卿の御子息にお会いした。
ギルベール卿はとても紳士的で、文武両道、容姿も端正な好青年だった。
けれど私にとって、そんなことはどうでもよくて。だから彼は私には大層過ぎた人だった。
まるで絵に描いたような二人だと賛美の声を受けながら、私とギルベール卿の恋物語はつつがなく進み、いよいよ縁談話が出ようという頃合いになる。
そのとき、私は偶然にも聞いてしまった。
母が父を説得しているのを。
「高名なギルベール卿の花嫁に、妾の子では申し訳がたちません。
この際、サーシャをこの家の跡取りにいたしましょう?
そうすれば、きっと没落貴族の汚名を拭うことができます」
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