第三の扉 ―強欲―

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けれどそんな私たちの事情なんて、お構いなく進んでいくのが貴族様だ。 「サーシャ!ギルベール卿の御子息が、貴女を大層気に入ったそうよ!」 私の自室を訪れると、いつになく興奮気味に母はそう言った。 ギルベール…確か、王家に連なる大貴族のひとつだった気がする。 「それは良かったわ、お母様」 私はいつも通りに返事をする。 なるほど、これで縁談話でも来れば母の願いは殆ど叶ったも同然だった。 「あぁ、サーシャ、ギルベール卿にお会いして?」 「もちろんよ、お母様」 私はにこやかに微笑む。 誰であれ嫁いでしまいたい、そうすれば今よりはずっと良い、そう思っていた。 けれど、そんな私は浅はかだった。 それから私はギルベール卿の御子息にお会いした。 ギルベール卿はとても紳士的で、文武両道、容姿も端正な好青年だった。 けれど私にとって、そんなことはどうでもよくて。だから彼は私には大層過ぎた人だった。 まるで絵に描いたような二人だと賛美の声を受けながら、私とギルベール卿の恋物語はつつがなく進み、いよいよ縁談話が出ようという頃合いになる。 そのとき、私は偶然にも聞いてしまった。 母が父を説得しているのを。 「高名なギルベール卿の花嫁に、妾の子では申し訳がたちません。 この際、サーシャをこの家の跡取りにいたしましょう? そうすれば、きっと没落貴族の汚名を拭うことができます」
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