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「ギルベール様はどなた?」
「エメリア!」
急に姿を現した私に人集りは驚き、殆どの人が恭しく頭を下げた。
その中で立っているのがお父様…そして、一人の端正な顔立ちの青年がいた。
その青年は私を見るとにこやかに笑い、膝を折って挨拶をした。
「サーシャの妹君…エメリア様ですね?
お初にお目にかかります」
「ギルベール様ですね?」
青年はにこやかに頷いてみせた。
「私、貴方に聞きたいことがありますの」
私は意を決する。今まで人前に立ったことのない私。心臓が破裂しそうなくらいどきどきしていた。
「お姉様…サーシャの、何処を好きになったのですか?」
私の決意とは裏腹に、ギルベール様は少しきょとんととしたあと、さも当たり前のように答えてみせた。
「彼女は美しい。けれど私は他の、見た目しか見ていない貴族とは違います。
サーシャは、実に素晴らしい女性です。淑やかで、可憐で、儚げだ。
私は彼女を守りたいのですよ、妹君」
ギルベール様はさも素晴らしいことを言った風に振る舞っていた。
けれど、私は、きっと怒っていた。
彼は、お姉様のことを何もわかっていない…!
毎回中庭を素足で走り抜けては、私の部屋に忍び込むお姉様。
ドレスや堅苦しい場所が何より嫌いで、欲もなく、自由を愛するお姉様。
「失礼ですが、お姉様は貴方が思っているようなお方ではありません!」
私は大きな声を出してしまっていた。
そのまま踵を返し、部屋へと戻る。
「あと、貴方の贈り物も、お姉様は喜びません!」
最後に振り向いて、そう言う。ギルベール様の周りには沢山の高級そうな贈り物で溢れていた。
狼狽するお父様を振り切って、私は駆け出していた。
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