友達

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1. 美谷さんが気持ち悪いくらい部屋を綺麗に整えていってから、一日。 わたしの家の玄関先には知らない男の子が緊張した面持ちでわたしを睨んでいた。 「…………」 なんとなく睨みかえしたまま、五分が経過。 いい加減目が疲れてきたのか、彼は小さくなって口を開いた。 「あの……隣の、山内です。あの、こ、れ」 どもりつつ、押し付けるように渡された箱の表に書かれていた文字。 『引っ越し蕎麦』 なんだ。不審者かと思った。 ただの山内か。 「あらどうも。じゃあ……」 突然のご近所さんというカミングアウトと襲来に、無仕度のわたしは考えた。 玄関には、昨日石島君に渡し忘れた引っ越し蕎麦しかない。 逆を言えば、それがある。 ……これだ。 「こちらもどうぞ」 その蕎麦をこちらも押し付け半分に渡した。 石島君のは違う物をあげればいいや。 「では、失礼します」 蕎麦を抱えた男の子は、そのまま逃げるように石島君の家に消えた。 ……あれ? 中身は、いかにもな雰囲気を持った高そうな引っ越し蕎麦だった。 とりあえず、お昼確保。
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