2人が本棚に入れています
本棚に追加
~天秤~
「つまり、件は国から“件の館”を預かった、もしくは貰ったか。
そして件が館を管理するお金も、国の機関が出しているって事?」
「あくまで可能性の話だが、俺が言いたいのはそういう事だ。
これが真実なら、お前は何か大きなものに巻き込まれる可能性もある。」
「黒澤は、件の館をどんな場所だと思ってるの?」
「…1度しか入った事が無いので何とも言えんのだが、
単なる図書館では無い事は間違いないだろう。」
まぁ確かに、普通の図書館で無い事は認める…。
件が外で仕事をしている様子も無いし、入館者からお金を取ってもいない。
その割には、1ヶ月に1度くらいは、業者を呼んで庭の手入れもするし、
館内の清掃もするし、売店の商品も新しい物を入荷している。
それまでは、凄いお金持ちなんだなと思っていたけど…、
「国が建てたという事は、何らかの目的があるからだ。
その目的が一体何なのかは、皆目見当もつかんが…、
一介の女子高生が関わっていいものとは、到底思えん。」
「だから…、もう件とは関わるなって事?」
「奴の正体は未だ不明、実に巧妙に隠蔽されている。
恐らく俺も、これ以上首を突っ込めば何かしらの形で影響を受けるだろう。
実際、もう既に上から“大神崎の事は忘れろ”と言われ始めている。」
つまり、“だからこそ”という事か…。
もしも件の館が、国に関係している機関で、探られたくないものだとしたら、
刑事である黒澤を抑えるのは必然であり、容易い事だろう。
「これ以上お前が奴に関わって、巻き込まれてしまってからでは、
俺には手の出しようが無くなってしまう。
そうなってからでは遅いんだ。」
黒澤が私をじっと見据えて、強くそう言った。
純粋に、私を心配して言ってくれているのが理解出来た。
もはや、“ただ気に入っているから”では説明出来ないほどの、覚悟も…。
だけど…、私が、黒澤の覚悟に答える事は出来ない理由は…、
「ごめん黒澤…、私の為に言ってくれてるって事は、充分理解したつもり。
けどね…、やっぱり私は、黒澤より件の方を信じる。
彼が私を危険な目に合わせたりなんか絶対しないって、信じてるから…。」
「…ならば好きにしろ、俺にはお前の交友関係に口出しする権利は無い。」
黒澤は、もうそれ以上は何も語らず、食事を再開した。
「くそ…、冷めて肉が固まってやがる。」
了
最初のコメントを投稿しよう!