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「こら、無視するなである」
少女は、ステッキでコン、と八坂翔太の頭を叩いた。
「いてっ」
「我の話を聞け、なのである。学校で習わなかったのであるか?」
ぷう、とむくれた顔をして、高飛車に続ける。
「良いか。続けるである。我は、我の孕みし闇の落とし子こそ暗黒十字世界の最下層たる第一階梯地球の魔王となるべきを予知し、その種となるべき肉奴隷を捜す旅に出ているのである」
「……肉奴隷……?」
よく分からないがここは右から左に聞き流すか無視するか耐えるかの三択しかなさそうだ。
少女は、つん、とせいいっぱい胸を張り、こまっしゃくれたあごを突き出して続ける。
「聞くがよい愚かなる人間よ」
「っていきなり愚民扱いかよ」
「憎魔の輝かしき闇の王が生まれ出ずるとき、我らが花魔族の栄光に満ちた世界が天花乱墜する。すなわち地獄の花の咲き乱れる暗黒の澱み、名状し難き混沌と恐怖に苛まれ覆い尽くされ人々のすさぶる怨念と絶叫が滝となり豪雨となって永遠に流れ落ちるであろう阿鼻叫喚の大地。贄たる人間どものうちふるえる死の嘆きこそが悪魔の蓮華となり至高の供物なのである。ということで、分かったか、スイートハート。分かったらちんこよこせである」
「形容詞大杉」
少女のあたまのてっぺんは、高校生の八坂の胸より下、ほとんど腹あたりにやっと届くか、届かないかぐらいだ。
だが、幼く見える外見とは裏腹に、ぷっくりとかわいらしいあひる口からは、にわかには信じがたい、暗黒歴史を織りつらねるかのような邪気眼臭たっぷり闇セリフがつむぎ散らされている。
曰く、理解不能。
正視不可。
諸行無常。
まさに悪辣なる邪教神典が如く。
それでも、ぱっと見た限りでは、思わずどきりと胸をときめかせてしまうほどに少女の面持ちはいとけなく、愛らしい。
――あくまでも、見た目に限った話、だが。
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