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「……ん…」
…私の前で誰かが戦っている。
……誰…
「……れ……」
誰?と尋ねたいのに
声が出ない。
私の前に立つ青い服を着た
男の人は、どうやら敵らしき者に
肩を深く斬られた。
「!」
ーっ どうしよう…!?
立ち止まったまま動けず
声すら出ない私。
すっぱりと切れた肩は
とてつもなく痛々しい。
傷口から鮮血が飛び散る。
「………っ…」
唇に散ってきた血は
袖で拭きとっても拭きとりきれず
嫌な味を私の唇に残した。
怖い。 怖い。 怖い。
がたがたと震える足。
震える事は出来るのに
何故動けないの。
恐怖を目前とし涙ぐむ私に
ゆっくりと振り向いて
彼は言った。
『…大丈夫。…だか……て…』
「…??」
痛みを必死に堪えるその人は。
私を恐怖から少しでも遠ざけよう
と精一杯微笑み、
私に何か言おうとしていた。
「……」
もうやめて。
もうやめて下さい。
唇は動くのに肝心な声が出ない。
その人は斬られた右肩を
かばいつつも私を守る様に
左手で戦い続ける。
…これは夢。
夢。
…夢。
……夢。
私は目を瞑り何かの呪文の様に
心の中で何度も
同じ言葉を繰り返した。
………夢………!!!
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