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“ヒロちゃん”と呼ばれた「チェリー」のオーナー兼マスターの野沢宏次は、少し、うっとうしそうな前髪をかき上げながら出て来る。
優しそうな面立ちに、しっかり男性らしさが窺える、2枚目だ。
薄く赤い色が入った、縁も赤いサングラスの奥に見える瞳も、意思の強さを感じる。
ただ、今ひとつドコを見ているのか分からない、神秘的な印象を受けそうだ。
光の下に出てきた宏次は、太陽をまっすぐ見上げ、手をかざしたり、退けたりをしばらく繰り返して、ミラに声をかけた。
「言っとくけど、バケツを運ぶのが嫌なら、フロアのモップがけを代わりにしてもらいますからね。」
「だってバケツ重いんだもん。」
「この店から出るゴミが重いって事は、それだけお客様が来てるって事でしょう?感謝して貰わないと。」
「ミラにはそんな事より、腕が痛いコトのほーが、じゅーよーだもーん。キンニクヒロウでにゅーさんがさー。」
何やらごちゃごちゃと言い訳を始めたミラの口を、宏次が無造作に手でふさいだ。
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