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まだ夕方6時前だというのに、街は随分と闇に染まっている。 昨日よりも寒さを増した風を切りながら、遼平は走っていた。 デスクに置かれた小さいデジタル時計が午後5時を少し過ぎた頃、係長の前原が遼平を呼んだ。 近くの雑居ビルの屋上に、フェンスを乗り越えた人影が見える。多分、飛び降りるつもりだ。 そういった旨の通報があり、すぐに向かって欲しいと前原は言った。 そういう通報が入ると、誰よりも先に現場に駆けつけるのが遼平の仕事であるから、勿論すぐに飛び出して今こうして走っている。 街を歩く人々にぶつからないよう器用に避けながら走る遼平の少し先に、雑居ビルが見えた。 屋上に、確かに黒い影が小さく見える。更にビルに近づくと、遼平は気付いた。 その黒い影は、紺色の服にスカート姿でフェンスを乗り越えて座りこんでいた。 その服装に見覚えがある。 あれは近所の公立高校のセーラー服に、間違いなかった。 ー高校生は、厄介だな。 遼平は雑居ビルのエレベーターに駆け込みながら思った。 どうやら、エレベーターでは屋上まで行けないらしい。 遼平は息を切らしながら、一番上の10階のボタンを押した。 ぶぅん、と古いエレベーターの動作音と共に、体が上昇する感覚。 10階に着くまでのエレベーター内で、遼平は深呼吸した。 大丈夫。上手くいく。 自信を持て、俺。 遼平が2度、3度と呪文のように唱えていると、10階に到着したエレベーターの扉がゆっくり開いた。 遼平はエレベーターを飛び出し、屋上まで続く階段へ走った。 階段を三段飛ばしで上がり、鉄製の錆びた重いドアを開くと、視界が開け屋上へ出た。 風が汗を滲ませた遼平の額を撫で、一気に体が冷えるような感覚がする。 遼平の正面、15メートル程先のフェンスの向こう側に少女は居た。 向こうを向いていて顔は見えないが、髪は肩より少し長い綺麗なストレートで、風に靡いていた。 フェンスにもたれるように座りこんでいるせいか、すごく小柄な体型に見えた。突風が吹いたら簡単に飛ばされてしまいそうだ。 遼平は静かに、数歩近付いた。 相手を驚かせないように慎重に、ゆっくり、息を殺して。 『おじさん、私を止めに来たの?』 遼平は体が強張るのを感じた。先程よりも体が冷える感覚。指先が痺れて来ている気がする。
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