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女の子は相変わらず俯いていたが、どうやら遼平の気配に気づいていたらしい。 『…気付いていたのかい。すまないね、びっくりさせちゃったかな?』 遼平はなるべく、穏やかなトーンで言った。急に話しかけられて驚いて心臓がバクバクしていたが、それは悟られてはいけない。 なるべく平常心を装った。 『こんな所に居たら危ない。とにかくこっち側に戻って来るんだ。』 遼平は言いながらまた数歩近付いた。 『危ないって…そんなの分かってるし。だって私、本当に死ぬつもりだから。』 そういうと女の子はゆっくり振り返った。 風に靡く黒い真っ直ぐな髪と、パッチリしていてやや黒目がちな瞳。 丸みを帯びた鼻と薄い唇。それらを囲む小さい輪郭。 ごく普通の、可愛らしい女の子だった。 こんな可愛らしい娘が、今ここで自ら命を絶とうとしている。 遼平は、胸がグッと締め付けられる感覚を感じた。 女子高生の説得は初めてではなかった。何度か経験して、全て思いとどまらせる事が出来た。 しかしー… この娘は、これまでの娘たちとは違う何かを感じた。 本当にこの世の全てに絶望しているような、悲観しているような、小柄な体全身から出ている悲しみのオーラを。 体が急速に冷えて行く。 喉がカラカラに渇いて、上手く声が出ない。 『いいか、馬鹿な事は考えちゃダメだ。 君には、これから長い人生が待ってる。その中で結婚したり、子供ができたり、幸せだと思える事がきっと沢山あるはずだ。』 遼平はどうにか声を振り絞った。いつもは、頭の中で文章を作ってから、計算しながら喋るのだが。 なぜか上手く頭が回らなかった。 いつものような余裕も一切感じられない。 『死んでしまったら、もうお終いになる。 悲しむ人も居るし、苦しむ人も居る。それに』 遼平は息を吸って続けた。 『悲しいけど、死んでしまった人の事はきっと、いつか忘れてしまう。 君が生きていた事が忘れられてしまうなんて、そんなの、悲しい事だよ。だから、死んじゃダメなんだ。』 言ってる事が多少おかしいのは分かっていたが、これを言うので精一杯だった。 女の子は遼平をじっと見ながら、少しだけ微笑んだ。 『おじさん優しいんだ。学校の先生も、親も、周りの大人はみんな、死ぬのは良くないって言う。頑張れ、何でも相談していいから。って。 でもね、私、それが本心じゃないって気付いてる。』
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