プロローグ

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『…私にはあなたの気持ちは分からない。いや、分かりたくもない! 簡単に死ぬんですか!?諦めるんですか!? 死ぬ気になれば、何でもできるでしょうが! あなたは悔しくないんですか!リストラされた会社、見返してやろうとは思わないんですか!』 遼平は一気に言葉を浴びせた。我ながら素晴らしい滑舌だと思う。 その際、少し泣きそうな辛そうな表情を造るのは忘れてはならない。 その3、相手が怒ったら逆ギレせよ。あまり罵倒し過ぎると落ち込んで飛び降りてしまうから、ほどほどにだ。 男は遼平の勢いに圧倒され、少しばかり小さい声で 『しかし…もう再就職なんて……』 と、独り言のように言った。 『死ぬ気になれば何だってできるはずです!死んだらそれで終わりだ! 今あなたは死んだんです!明日から、生まれ変わった新しいあなたで生きてみましょうよ!? きっと、未来は明るいです!!この美しい東京の夜景のように』 目を細め両腕を大きく広げて夜景を眺める。 決まった。完璧だ。 遼平は心の中で小さくガッツポーズをした。 それを訊いていた男は、反省したようにうなだれ、少しその場に留まったがやがて、ゆっくりフェンスを登ってこちら側に戻って来るなりガックリと膝を付き、顔を上げ潤んだ目で遼平に訊いた。 『本当に…やり直せるだろうか?』 『勿論です。人生は無限の可能性を秘めてるんですから!』 そう言って遼平は男の手を握り、ニッコリと笑った。 男は静かに、泣いた。
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