其ノ壱 紫月の章<銀の城>

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俺の家は、銀[シロガネ]一族に仕える家系…らしい。 “らしい”というのは、仕えるべき銀一族を一人も見たことがないからだ。 見たこともない人物に仕えろなんて言われても無理な話しだ。 それなのに… それなのにだ―― ***** 澄み渡る空はどこまでも青く、時折吹く風に乗り、桜の花弁が舞う。 そんな青空の下、紅い飛沫が飛び散った。 「紫月<しづき>!真面目にヤらんかああぁぁぁ!!」 響き渡る怒鳴り声に、木々の枝で休んでいた鳥達が一斉に逃げ出した。 「…私は何時でも真面目です」 紅く染まった左腕を抑え、黄金色の瞳は師匠を映す。 眼前の刀の切尖は気にしていない様だ。 「殺す気で向かって来いと…あれ程申したではないくぅわぁぁぁ!!」 真っ白な髭を振り乱し、老人は地団駄を踏む。 禿上がった頭から湯気が立ち上ってきそうな勢いだが、言われている本人は冷めきっていた。 わざとらしい溜息をしながら、自分の刀を腰に納める。 「師匠…お言葉ですが、私は主である銀一族を見たこともないのです。 護る対象がいないのに、この様な修行をしたところで何の役に立ちましょう?」 冷たい月を思わせる瞳の青年は、師匠に背を向けて歩き出した。
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