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朱莉は勢いを殺さずに跳び蹴りを放ってきた。
俺は数歩横に動き、跳び蹴りを空振った朱莉に棍を振り下ろす。
「ふっ!!」
朱莉は空中にいながら跳び蹴りで使った足で俺の棍を払い退け、俺の腕を掴んで体を引き寄せた。
そして、自分の足が地面に着くと同時に、俺を投げ飛ばした。
俺は受け身を取りながら胸に走る痛みを感じられずにはいられなかった。
今まで、向き合っていなかったからだろう。
朱莉に明菜さんが重なって見える。
あの日のことが、嫌でも思い出される。
俺の手元に流れ落ちる赤い液体。
道場内を埋め尽くすどよめきと、祖父の叫ぶ声。
畳に血だまりを作って、倒れこむ明菜さん。
今まで思い出さないようにしてきた記憶が一気に溢れ出してきた。
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